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最高裁判所第三小法廷 昭和51年(オ)978号 判決

上告人 上村弘司(仮名)

被上告人 上村マサエ(仮名)

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人松浦武二郎、同松浦正弘の上告理由一ないし四及び七について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして是認することができないわけではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものに帰し、採用することができない。

同五について

記録によれば、原審は所論の遺言書提出命令の申立につきこれを許すべきではないと認めて暗黙に却下したものと認められるから、右申立についてなんらの裁判をしなかつたとの論旨は理由がなく、また、原審認定の事実関係のもとにおいて右提出命令の申立を容れなかつた原審の判断に、所論の違法は認められない。

同六について

民法九六八条によれば、自筆証書によつて遺言をするには、遺言者がその全文、日附及び氏名を自書し印をおさなければならず、右の日附の記載は遺言の成立の時期を明確にするために必要とされるのであるから、真実遺言が成立した日の日附を記載しなければならないことはいうまでもない。しかし、遺言者が遺言書のうち日附以外の部分を記載し署名して印をおし、その八日後に当日の日附を記載して遺言書を完成させることは、法の禁ずるところではなく、前記法条の立法趣旨に照らすと、右遺言書は、特段の事情のない限り、右日附が記載された日に成立した遺言として適式なものと解するのが、相当である。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切ではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 環昌一 裁判官 天野武一 江里口清雄 高辻正己 服部高顯)

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